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短い時間で「止める」「蹴る」を上達させるコツ/初めて指導するチームでサッカーの基本技術を教える練習法

『サッカー指導者のためのオンラインセミナー「COACH UNITED ACADEMY」』では、毎月4本の動画を配信している。トレーニング実践や座学など内容は多岐に渡るが、視聴者の方から「講師が別のチームで指導した場合、どのような指導になるのか見てみたい」「自分のチームの選手は、動画に出てくる選手ほどレベルが高くないので、どう指導(コーチング)すればいいかがわからない」といった意見を寄せられることもある。

そこで今回は、以前『「止める」「蹴る」を確実にできる選手を育てるには?』というテーマで出演してもらい、大きな反響を呼んだ内藤清志氏に「初めて指導するチームで『止める事』『蹴る事』を正確に教える練習方法」を実践してもらった。(文・鈴木智之)

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ロンドのトレーニングで選手に意識させるべきポイントは2つ

内藤氏が訪れたのは、神奈川県横浜市にある街クラブの「FCカルパ」。全体の練習時間は約90分という限られた時間の中、「狭いエリアで行う、パス&コントロールのトレーニング」というテーマで、前編の指導実践がスタートした。

内藤氏は、事前に大まかなトレーニングメニューを考えてトレーニングに入ったが、どのメニューにどのくらいの時間をかけるのか。そのメニューからどういったことをフォーカスするかは、子どもたちの様子を見て決めていったと話す。

最初のトレーニングは「3対1」。5m四方のグリッドの辺に3人が立ち、オニが1人。オニにボールを奪われないようにパスを15本つないだら1点というルールだ。誰しもがやったことのあるトレーニングだが、内藤氏は2つのポイントを強調する。

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それは「パススピードは速くすること」と「味方同士で線を引けるポジションを意識すること」だ。パススピードが遅いと、オニに近寄る時間を与えることになる。そのため、速いボールを蹴り、オニに近寄るスキを与えないことがポイントだ。

そして2つ目の「味方同士で線を引けるポジションを意識すること」は、ボールを持っていない選手が、ボールを持っている選手との間にパスコースをつくる動きのことを指す。それにより前述の速いパスが可能になる。味方同士が線で結ばれているようなポジションをとることを、内藤氏は「線を引く」と表現する。

「線を引くためには、パスの受け手が動くことと、ボール保持者がオニをかわすこと。この2つで線を引くことができます」(内藤氏)

トラップはボールが来た方向と次の方向にパスが出せる位置を意識する

子どもたちにポジショニングと味方との関係性を意識づけたところで、「試合をイメージしてやろう」と話し、「ボールが来た方向にパスを返すのと、来た方ではない方向へパスをするのだと、どっちがゴールに近づけそう?」と問いかける。

たとえばAという選手がボールを持っていて、Bにパスを出す。BはAにリターンパスをすることもできるが、Cにもパスを出すことができる。この二択で、どちらの選手にパスを出したほうが、ゴールに近づくかな? という質問だ。

内藤氏は種類の異なる2本のパスを「未来へのパス」と「過去へのパス」と表現する。ボールが来た方向の選手(A)にパスを返すのが過去のパス。次の方向に出すパスが「未来のパス」というわけだ。

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内藤氏はこれらの考えを説明しながら「未来へワンタッチでパスを出せたら3点にしよう」とルールを変更し、子どもたちが未来へのパスを狙うように仕向けていく。そこでは「未来を見てた?」などとコーチングをしているので、詳細は動画で確認してほしい。

また、すべてのプレーで未来へパスを狙うことが正しいとは限らない。オニがパスコースを切っていたら、過去にパスを出して、状況の変化を作り出すことも必要だ。

「どんな状況でも3点を狙わない。3点を狙っているけど、相手(オニ)が狙っていたらやめて、1点のパスを狙おう」

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さらには「どうすれば、オニはボールを奪いに行きづらいか」にも言及。ポイントは「未来と過去の両方にパスの出せるボールの置所、身体の向きを作ること」だ。そうするとオニはどちらのコースにパスが来るのかを限定できないので、勢いを持って、寄せに行くことができなくなる。

FCカルパの子どもたちは技術が高く、ボールとの位置関係で身体の向きを変えたり、細かなステップを踏んで体勢を整えながら、スムーズな動きでボールをつないでいた。そのあたりの様子も動画に収録されている。

「自分の動きで相手(オニ)のスピードを調節しよう。相手が遅くなり、自分は速くプレーできる。それが一番いい状態だよ。いくらボール扱いが上手くても、相手の足が届く距離に寄せられると不利になる。体勢が悪い場合は、簡単に過去にパスを出して、身体の向きを整えよう」(内藤氏)

指導で重要なのはフォーカスポイントをどこにするのかを決めること

内藤氏は、3vs1の指導を終えて、このトレーニングの意図やポイントを以下のように話した。

FCカルパの子どもたちは、ボール扱いのスキルは高いと感じたので、それを試合の中、つまり相手との戦いの中で利用するにはどうするかに焦点を当て、子どもたちに発問し、「相手のスピードを遅くする」そのためにボールの回りでステップを踏み、身体の位置を整え、過去にも未来にもいけることの重要性を導き出しました。これがもう少しボール扱いに難のある選手たちならもっと技能的な部分(ボールをどこに当てて、足のどこでボールを蹴るなど)に時間を割いていました」

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「多くの指導者の方がトレーニングを実施する際にキーファクターを用意していることがあると思いますが、それが全て目の前の子どもたちのプレーに出現しているか。そこを見て伝えたり、引き出したりするボリュームをコントロールすることが、子どもたちの『納得感→主体性』につながっていくと考えています」

「そういった意味では、今回はボール操作というよりは、ボールの回りでステップを踏み、ボールとの関係性を整えることで、過去にも未来にもいける。それにより相手の狙いに迷いが生まれ、相手が遅くなるという『技術力』よりも『戦術的思考力』にフォーカスしてトレーニングを進めました」

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同じメニューでも、フォーカスポイントを変えると選手たちへの刺激が変わると話す内藤氏。

そしてそのフォーカスポイントをより深く理解するために、今度は2vs1のトレーニングに移行していった。

指導で重要なのはフォーカスポイントをどこにするのかを決めること

続いての2対1のトレーニングでは、攻撃側2人、オニが1人の状態で攻撃側がパスをつなぎ、オニに奪われないように、パスを6本通すが、サイドのコースへドリブルでボールを運ぶという設定だ。

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最初に行った3対1はグリッドを狭く設定しているため、身体を運ぶ(ドリブルをする)ことはあまりできない。そのため、攻撃側の選手はオニの動きを見て、ボールの置き位置や捕まらないためのパススピードや事前のプランを持つことに意識を向けやすいのだが、2対1ではスペースへドリブルで進入することが目的なので、相手との駆け引きを含め、より実践に近い形になる。

「守備の選手(オニ)はインターセプトとドリブルの阻止を狙うこと。ドリブルしている選手の身体に触れば、守備側の勝ち。攻撃側は未来(ドリブル)を狙おう。過去にパスを出すことが目的ではないよ」

ここで内藤氏が強調したのが、ボール保持者の身体の向きだ。

「『運ぶ』はボールと一緒に身体も進むことだよね。つまり、ドリブルは未来に進みたいので、過去(味方側)に身体を向けたままにしないこと。過去にパスを出すことが目的ではなく、未来にドリブルすることが目的だよ。相手(オニ)の足をよく見て、後ろ重心ならばパス、前重心ならばドリブルを狙おう」

シンプルなトレーニングながら、フォーカスポイントを明確にすることで、子どもたちも理解しやすく、プレーに落とし込みやすい設定になっていた。また、3対1から2対1にすることで、止める、蹴るの技術、認知、判断に加えて、相手との駆け引き、ボールを運ぶことにも働きかけることができるので、経験の浅い子どもたちでも十分に取り組むことのできるトレーニングと言えるだろう。

後編ではエリアを広くし、ドリブルで運ぶことや、正確にボールを止めることの必要性を感じさせる設定でトレーニングを展開していく。

撮影協力:FCカルパ

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【講師】内藤清志/

筑波大学を卒業後、同大学大学院に進学。それと同時に指導者を志し、筑波大学蹴球部でヘッドコーチなどを長く歴任。谷口彰悟や車屋紳太郎など日本代表選手を指導。その後、サッカースクール・ジュニアユース年代の指導を経験した後、現在は筑波大学大学院に戻り自身が所属するサッカーコーチング論研究室の研究活動の傍ら、サッカーの強化・育成・普及活動を行う。

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