TOP > コラム > ボールを失わない判断力を身に付ける方法/「運ぶドリブル」を習得する川崎フロンターレU-10のトレーニング

ボールを失わない判断力を身に付ける方法/「運ぶドリブル」を習得する川崎フロンターレU-10のトレーニング

ジュニア年代で強豪の地位を築く、川崎フロンターレアカデミー。三好康児や板倉滉、宮代大聖などアカデミー出身のタレントが多く、高い育成力に注目が集まっている。U-10の冨田幸嗣コーチによるトレーニング後編は「試合でマイボールを失わないために、個でボールを運ぶトレーニング」と題し、「実戦形式の中でボールを運ぶ応用練習」を実践してもらった。(文・鈴木智之)

この内容を動画で詳しく見る

tomita0204.png

<< 前回の記事を読む 

ドリブルの役目は長い距離を運ぶことだけではない

冨田コーチは「グループでプレーする中で、どこのスペースにどうやってボールを運ぶかなど、判断の要素が必要なトレーニングをします」と話し、「3vs3vs3+2サーバー」のトレーニングがスタートした。

tomita02_01.png

これは「ドリブルでボールを運ぶこと」「その後のパス」にフォーカスしたトレーニングで、4本パスを回してからドリブルで相手陣地に進入するというルールで実施。「ドリブルでラインを突破した後でないと、味方チームにパスを出せない」というルールなので、パス、ドリブル、パスと、実際の試合に近い状況が作られている 。また、攻撃方向が頻繁に変わるとともに、守備側がボールを奪うとすぐに攻守が切り替わるので、実践に近い強度が求められるところもポイントだ。冨田コーチは言う。

「川崎フロンターレでは、子どもたち自身が1ヶ月のテーマを決めています。今月のテーマは『攻守の切り替えのスピード』です。試合に近い状況をトレーニングで作り出し、ハードワークすること、攻守の切り替えのスピードを上げることに対して、少しずつ意識してできるようになってきました。指導者が与えるものだけでなく、選手自身が考えて、自分たちで取り組むことを大事にしているので、その部分も合わせて見ていただければと思います」

選手たちはやや複雑な設定ながら、戸惑うことなくプレーを続けていく。いかに、日頃から質の高いトレーニングをしているかが分かる。冨田コーチは「ボールを奪われた瞬間に切り替えて、奪いに行こう」「長い距離を運ぶことだけがドリブルではないよ。ボールを運ぶ位置によって、状況がどう変わるかを見よう」と、プレーのイメージについて働きかけていく。

tomita0201.png

また、ボールを運んでいる際には、周りの選手に対して「味方がボールを運んで状況を変えたときにアクションをしよう。ピッチの中で幅と高さをとること。パスを受ける選手はタイミングを合わせよう」と声をかけ、オフザボールの動きについても重点的にコーチングしていく。

続いてはグリッドの中央にマーカーでゴールを作り、そこをドリブルで通過するか、マーカーゴールをパスで通過し、反対側の選手へのパスが成功したら1点という設定に変更。

tomita02_04.png

新たなルールを設けたことで、ただのパス回しにならず、ドリブルで進入する動きやスペースに出てパスを受ける動きが出始める。

「どうアクションする?」「どこにポジションをとったらいい?」「パスを回しているときの頭の中!」(冨田コーチ)

ボールを運んだ時に周りの敵味方の動きがどう変わるかを確認する

続いては「5vs5+2サーバー」。

tomita02_05.png

ルールとしては、攻撃方向のサーバーがいるラインをドリブルで通過すると1点となる。グリッド中央のマーカーを残し、そこを突破すると攻撃側のチャンス、守備側のピンチになるので、両チームとも中央部を狙うことに目を向けるように意識付けしていく。

ここでは、選手たちに周囲の状況を観ることを徹底。

「ボールを運んでいるときに、奥(先)を見よう。どこに運べば、状況がどう変わる? ボールを運ぶことで敵味方がアクションを起こすので、状況が変わる。味方はそれを見逃さず、反応してあげよう」

さらには、今月のテーマでもある「攻守の切り替え」についても言及し、認知や判断に働きかけていく。

tomita0202.png

「攻撃が始まる瞬間は、ボールを奪ったときだよね? じゃあ、ボールを奪ってからスタートするのか。それとも、取れそうだなと思ったときに攻撃をスタートさせるのか。ボールを奪ってから攻撃をスタートすると、ボールの周りには人がたくさんいるよね。ボールを取る前から、どこに相手がいて、どこにスペースがあるかを観ておこう」

冨田コーチは「後編では、試合に近い状況で、判断をともなうトレーニングを行いました。U-10でボールを運びながら相手を観ることで、この後の年代で実施する、パス&コントロールの中でも、相手を観ることにつながっていきます」と、狙いを説明してくれた。

tomita0203.png

動画を見るお分かりいただけると思うが、U-10年代でありながら、スペースの認知、状況に応じた技術の発揮などは、日本トップレベルのクオリティにある。例えるなら、「小さなサッカー選手がプレーしている」といった様子だ。日々のトレーニングの積み重ねで、U-10であっても、ここまで質の高いプレーができることが分かるだろう。全容をぜひ動画で確認してほしい。

<< 前回の記事を読む 

この内容を動画で詳しく見る

【講師】冨田幸嗣/
川崎フロンターレU-10コーチ。選手時代は川崎フロンターレU-15、U-18でプレー。その後、川崎フロンターレのスクールコーチなどを経て、2014年からU-10のコーチを務めている。