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サッカーは「上手く」なるから「楽しく」なる/エスポルチ藤沢のトレーニング

育成年代で最も大切なのは「感じる感性」と「個のスキル」を養うことだ――。そう強く主張するのは、高いテクニックをベースとしたイマジネーション溢れるサッカーで高い評価を受けている『エスポルチ藤沢』の広山晴士代表だ。8月後半のCOACH UNITED ACADEMYでは、サッカーとフットサル両方の競技経験を持つ広山氏が取り組むトレーニングとその指導方法に迫る。(取材・文/小須田泰二)

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■サッカー選手としての"下地"を作る

神奈川県藤沢市をホームタウンにしている『エスポルチ藤沢』は、テクニックを前面に押し出したサッカーで急成長を遂げているクラブだ。代表の広山晴士氏は現役時代、高校サッカーの名門・静岡学園高校を卒業後、読売クラブでプレー。その後はフットサルプレーヤーへと転身し、日本フットサル界の草分け的存在として活躍してきた。サッカーとフットサル。ふたつの競技を経験してきた広山氏が指導者として最も重視していることは何か。

「我々『エスポルチ藤沢』が重視しているのは、ドリブルやリフティングなど、ボールをコントロールする技術ですね。ドリブルが上手くなれば、パスの威力がより強力になります。プレーの選択肢が増えれば、相手との駆け引きが上手くなります。そうすれば、どんどんサッカーが楽しく感じられると思っています」

サッカーの中にフットサルの要素を取り入れているのも特徴のひとつ。広山氏自身、およそ20年前にフットサルに出会ったことで、個のスキルを磨くことへの情熱がより高まった。指導者になったいまでも、その経験が生かされている。

「最近はフットサルが育成年代に取り上げられてきているように、この年代で大事なのは個のスキルを磨くことなんです。特にフットサルの戦術を教え込むことは必要ないと思っています。フットサルであろうとサッカーであろうと、どちらにしても基本は『1対1』の局面ですよね? フットサルの戦術を理解したとしても、選手のベースとして相手を崩すための"テクニック"が身に付いていなければ行き詰まってしまう。小さい頃はサッカー、フットサルと区別をするのではなく、サッカー選手としての"下地"を作ってあげるのがいいのではないかと、個人的には思っています」

『エスポルチ藤沢』の練習場は「ミズノフットサルコート藤沢」。限られたスペースの中で日々のトレーニングに励んでいるが、そのことがハンデになっているとは思っていないという。

「もちろん常に大きなピッチでサッカーをやらせてあげたいという気持ちはありますが、どんな環境だろうと取り組み方次第で、サッカーが上手くなれると思っています。狭いフットサルのコートで、ハイプレッシャーの中でもスペースを見つけてプレーすることができるようになれば、サッカーの大きなコートでは余裕をもってボールを扱うことができます。また、ディフェンスとオフェンスがめまぐるしく入れ替わることで、攻守の切り替えも自然と意識するようになると思います」

■"考える"より"感じる"ことが大切

フットサルとサッカーの融合のカタチとして、広山氏が常にトレーニングの中で選手たちに意識させているのが「駆け引き」の要素だ。

「サッカーというのはすべて『駆け引き』で成り立っているスポーツだと思っています。相手との駆け引きを見ても、相手をかわすにはドリブルやフェイントを仕掛けるばかりではなく、ドリブルと見せかけてパスを選択してみたり、味方の選手を使ってワンツーで抜け出したりと、いろいろなバリエーションが存在します。この使い分けができるようになれば、ゴールエリアの狭いところでもプレッシャーを感じることなくプレーをすることができる。そうすれば、すごく自由で楽しいサッカーができるんじゃないでしょうか」

広山氏が重要視している「ボールコントロール」と「駆け引き」。その技術を磨くにはどんな点に注意すべきなのだろうか。

「矛盾しているかもしれませんが、あんまり教えすぎないことですね(笑)。僕は指導中、ほとんど指示を与えないんです。『ああしなさい、こうしなさい』と答えを伝えたら、"感じられない"選手に育ってしまいますから。僕の恩師でもあるセルジオ越後さんも同じことを言っています。サッカーはイマジネーションが大事なスポーツでもありますから。まずは"考える"より"感じる"こと。その感覚が、サッカーでは何より大切だと信じています」

しかし、その"感じる"ことができる選手を育てるスペシャルメニューというのは存在しない。今回のオンラインセミナーで紹介いただいたトレーニングメニューは、『8の字リフティング』や『4対2(鳥かご)』など、どこの練習場でも目にするものばかりだが、よく目を凝らして見てみるとある興味深いことに気づかされる。その基本メニューをただこなすのではなく、ほとんどの選手がノーミスで黙々と取り組んでいる。その姿はまるで職人のようである。

「サッカーというのは楽しむものですよね? 面白いものであれば夢中になります。集中して真面目に取り組む時間を持ちながらも、ときには楽しみながら競い合う。そんなメリハリのある練習が必要なんじゃないかと思っています。ただ、本番の試合でも楽しむことができるようになるには、やっぱり個のスキルをそのレベルまで磨かないといけません。それは誰かに教わって身に付くものではありませんから。『8の字リフティング』なんて、毎日の日課としてみんなやっていますが、これに関してはまさに修行ですよ(苦笑)」

サッカーの「練習」に選手を夢中にさせるマジックなどない。しかし、ドリブルをするコースに変化をつけたり、リフティングをしながら山を登らせたりと、選手やチームレベルに応じてひと工夫を加えることは可能だ。押し付けるのではなく、詰め込むのでもなく、選手がどれだけサッカーという遊びに真剣になれるか――。『エスポルチ藤沢』では、負けず嫌いの心をくすぐるような勝負を盛り込みながら、楽しませることを念頭に置いて選手育成に励んでいる。

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広山晴士(ひろやま・はるお)

1971年6月16日生まれ。愛知県出身。静岡学園高校卒業後、ジヤトコ、読売クラブ(現・東京ヴェルディ1969)でプレー。その後はフットサルプレーヤーへ転身し、AZUL、PSTCロンドリーナで活躍した。引退後は指導者の道へ。1998年に『エスポルチ藤沢』を設立、ジュニアおよびジュニアユース年代の育成に力を注ぎ、テクニックを生かしたイマジネーション溢れるサッカーで高い評価を受けている。現在は『エスポルチ藤沢』代表の他、聖和学園高校(宮城県)、中央学院高校(千葉県)、富士市立高校(静岡県)のアドバイザーも務める。